2016年7月10日日曜日

相貌

今日、免許証を更新した。
そして当然のように写真を撮られた。
撮られる間際にシャツの襟を立てようと思ったものの、何の合図もなく撮られてしまったために自身の姿はみすぼらしいものだろうと考えながら講習を受けていた。

自分の名前が呼ばれてから受け取るまで、私は窓際の列に並んで呼ばれるのを座って待つ人々をなめ回すように眺めていた。髪が青い女性、とんがり靴にパンツにチェーンをぶら下げた禿げたおじさん、何の印象も与えない青年、無関係な人たちと私との間には免許更新に来ているというただそれだけの共通点があるという不思議さに胸をうたれていた。
免許を受け取る間際には座って待機している人も少なく、私は手を伸ばしても届かないであろう距離にいる女性を見ていた。皆が皆、わき見反らさず一直線に免許を更新するという単一の目的の中、遮光シャッターの隙間から光りがこぼれていて、その光りに目を奪われている目的から外れた数瞬の女性は人間だと思った。

果たして小さな枠には世に埋まる顔つきの男がいた。
社会人二年目の生活を経て私は何一つ棘のなさそうな男の顔をそこに見たのだった。
これは一種、何かを成し遂げたいと心の奥底で思う私にとっては衝撃的なことだった。
この何でも言うことの聞きそうな男は人のいいなりに動けているかどうかは別にしても、いいなりであろうとする心の持ちようが相貌に反映されたに違いなかった。
そのときになって、ようやく私はサラリーマンなのだという感を得た。
これまで会社員という表現が私にとっては会社に属する一個人という意味合いであったのに対して、会社に属さなければならない一個人という意味合いのサラリーマンという表現が腑に落ちた瞬間であった。
あれは紛れもなくサラリーマンだった。
単一の目的以外にものを考えられない男の顔がそこにはあった。

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